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モルタル塗りの目的
住まい創りプロデューサー・一級建築士・FP(ファイナンシャルプランナー)
荒尾 博

1.モルタル塗りの目的 「防火構造」

 外壁に要求される主な性能は、雨、雪、風、日射など自然環境に対する性能、防犯性能などがありますが、モルタル塗り外壁を普及させた最大の目的は、何といっても防火、特に隣家からの延焼を防ぐことだと思います。

 よく比較される北米と日本の木造住宅の違いは、単に敷地や延べ床面積等の違いだけでなく、まさにこの点が異なっています。北米で最もポピュラーな2×4(ツーバイフォー)工法は、防火・耐火性能が優れた工法として紹介されましたが、大きく違う点は、北米の住宅は内部火災だけを想定しているのに対して、日本の場合は隣家からの延焼防止を第一としていることです。

 そこでモルタル塗りが普及しました。

 図1は、在来木造の外壁部分ですが、外側は延焼防止でモルタル塗りやサイディング等防火構造性能を有しているのに対して、内側は柱を見せるのが在来木造の特徴であり、その他の内壁は漆喰や入洛(じゅらく)など湿式建材で不燃性はあるものの、防火認定レベルではありません。

 火災のニュースで全焼と報道された例について、写真等で確認すると古い板張りの家は焼けこげた柱を残して無惨な残骸のようですが、モルタル塗りの場合などでは、外壁のモルタルを残して内部から屋根へ燃え広がっているケースが多いのです。つまり内部だけが燃え尽き、壁が残った形です。

図1 日本の防火構造 図2 2×4工法での日米差




2.防火構造と準耐火構造(モルタル塗り・サイディング等共通事項)

 ちょっと脱線しますが、そもそも耐火構造で重要なポイントが2つあります。

(1)内外の火災から建物を守ること

 建物の高さ階数に応じて、避難上躯体が耐える時間を定める。

(2)火災にあっても再使用できること

 主要構造体が損傷しなければ再使用できる(木造の場合、最悪損傷した柱を交換すれば再使用できる)。

 木造準耐火構造もこの2つの条件をクリアしているのですが、主要構造が木ですので、さすがに耐火とはいえず「準」という枕詞がついただけと私は解釈しています。

 こうした内外の耐火性能が評価されて、1993年に建築基準法上で木造の準耐火構造で3階建てアパートが建てられるようになりました。当時、画期的なことでした。

 アパートは個人住宅と違い、不特定多数の人が借りて住む空間です。当然建物には高い防火性が要求されるからで、木造=火災に弱いというイメージがようやく変わると期待したのです。

 しかし、当初建てられる場所は郊外などに限られ、単に北米からの圧力で形だけを整えた感もありました。耐火性能を認めたとはいえ、最も需要の多い準防火地域(東京23区など都市部住宅地)で建てられなければ意味がありません。

 そして、昨年ようやく準防火地域等での建築が認められるようになったのです。木造の持つ特徴を生かして、広がる可能性が何とか見えてきました。

(注意:建物の仕様等については厳しい条件がありますので、詳細についてはよくお調べください。)



3.モルタル塗りの問題点

 モルタル塗りの外壁は、サイディングが多く採用されるようになった今でも外壁の王者であることには変わりなく、そのためいろいろな指摘をされることが多いです。また、現場で調合し施工する比率が高いことから、施工上の問題も起こりえます。


<1>地震に弱い?イメージ

 モルタル塗り=地震に弱い? そんなイメージが「阪神淡路大震災」をきっかけに生まれました。モルタル部分がものの見事に剥がれ、木摺(きず)り等下地材だけが残って半壊した古い木造住宅が、都市直下型地震の象徴的な映像として何度も流れていたのが原因だと思います。

 確かにモルタル塗りの古い住宅が多かったことも事実ですが、住宅の時代性の問題で、モルタルのせいではありません。


<2>クラックが入りやすい?

 モルタル塗りはクラック(ひび割れ)が入りやすいと言う印象があります。確かに木造は鉄筋コンクリート造りとは異なり、もともと地震や強風で動く構造体ですから、モルタル塗りが追随しにくい場合はクラックとなることがあります。

 しかし、それだけではない原因もあります。たとえば開口部の四隅角はクラックが入りやすいのですが、その理由は紙の内側を四角に切り抜くと理解できると思います。

 図3の左側のクラックは、右側のようにラス網の補強を入れておかなければなりません。鉄筋コンクリート造りでもこの補強と同じように鉄筋の補強が十分でないとクラックが発生しやすくなります。

 ちなみに、クラックの定義というか、問題のあるクラックはどの程度かと聞かれると、単純ではありませんが、おおむね幅が0.3ミリ以上で長さが50センチ以上の場合はクラックとして補修等を検討しなければなりませんとお答えしています。

図3
開口部四隅のクラックと補強方法図
図4
モルタルのクラック

このクラックの主な原因をまとめてみますと、

(1)モルタルの工程(下塗り、上塗り)と養生の不足
(2)塗り厚不足や、過大な塗り厚
(3)下地であるラス材の取り付けの施工法
(4)ラス材の選定そのものの不良
(5)調合の問題(材料・骨材)
(6)モルタルの硬化時の乾燥等による収縮亀裂
(7)構造躯体の地震等による揺れ、振動 (図6)
(8)基礎や床、骨組みなどの構造耐力部の施工不良による壁の変形
 などです。

 モルタル塗りの場合、現場調合ですので、このほとんどは施工に絡む問題です。つまり、施工精度に大きく左右されるということです。


<3> ラス網の重要性

 現場調合での問題以外で重要なポイントは、ラス網施工です。

 特に防火構造や準耐火構造の場合、ラス網や留め付けタッカー釘に関してどれでも良いではなく、指定されているものでなければ問題になります。

※認定されているラス網例

・メタルラス(規格:JIS A 5505)
 質量500g/㎡(防火構造、準耐火45分)
 質量700g/㎡(準耐火1時間)・補強用平ラス
・タッカー釘(肩幅10㎜、足長16㎜以上)


図5
モルタル塗り壁構成
図6
クラック原因あれこれ



<4>モルタルと軽量モルタルは違う!

 モルタルは現場でセメントと砂と水を混ぜて作るものです。一方、軽量モルタルは既調合の工業製品です。施工後にこれらを見分けることは専門家でも難しいのですが、建築基準法等では全く別物です。前者は「13モルタル」といい、基本的に現場でセメントと砂を容積比1:3で混ぜたものを呼び、後者は工業製品でサイディングと同じ扱いなのです。もちろん、前者もモルタルの定義があり、一定条件を満たさなければ防火構造扱いにはなりませんが、後者は基本的に既調合でメーカーの決められた施工法を厳守して施工する義務があります。

 現場で適当に混ぜて使うケースがありますが、品確法(住宅品質確保促進法)等と絡み、もしクラック等で漏水(法では雨水の浸入)が起きたとき、その原因が調合ミスであれば当然問題にされるのです。この点は特にこれから厳しくなっていくと思われます。


<5>厚みの疑い

 モルタル塗りは防火が目的ですから、当然所定の厚みが必要です。下塗り、中塗り、上塗りなど仕様により施工しなければならないのですが、本来必要な厚みを確保しないで薄いままで終わらせているケースが多いと疑われています。

 防火構造では、モルタルで15ミリ、軽量モルタルでは製品によって薄くても認定されているものがありますが、この問題も(4)同様、火災などが起きて現場検証で厚み不足があった場合は、これからの品質重要社会では問題視される可能性があります。人の命にかかわることですから。


<7>仕様・品質の問題

 モルタルに入れる骨材は決まっています。基本的には砂や樹脂などの細骨材ですが、問題は薬剤と骨材の種類です。接着性を高めたりする目的で使用される薬剤も量が多いと防火性能にかかわる場合がありますが、問題視しているのはむしろ骨材です。パーライトのような不燃性の発泡系骨材であればまだ良いのですが、プラスチック系の発泡スチロールビーズなどを混入すると軽くなってよいというのではなく、防火性能では問題になります。

<8>施工の問題

 モルタル塗りの最大の問題は、「現場で調合し、練って使用」することから、施工品質の問題が大きく絡んでくることです。

 モルタルなど湿式建材の施工をする職人さんたちを日本では左官屋さんと呼びますが、その「左官」と名付けられた由緒ある歴史もあるせいか、左官屋さんは誇りを持って仕事をしている人が多く、また仕事上で腕を競い合う風潮が特に強く、その結果、施工品質も守られてきたと私は思っています。

 しかし、左官工事は、現場での作業比率が高く、きつい仕事でもあるためか、後継者問題を抱えています。また、昨今の建設コスト削減でも、最も影響を受けやすい職種でもあり、いろいろな意味で厳しい時代になっているようです。たとえば、サイディングが採用された住宅で左官屋さんの仕事といえば、和室の入洛塗りがあれば良い方で、多くはビニール等クロス仕上げとなり、残るは基礎コンクリートの化粧程度の仕事しかない場合もあります。

 したがって、モルタル塗りを選択する場合、きちんと修行した左官屋さんにお願いすることがポイントになってきました。この部分には、予算をケチらないで欲しいものです。



4.湿式外壁の魅力

 ここまで読まれた方は、私がモルタル塗り、湿式建材を否定しているのではと思われるかも知れません。しかし、それは誤解です。むしろ、明るい未来があると私は思っています。

 モルタル塗りに代表される湿式建材には現場塗り独特の味があります。

 皆さんも、この家すてきだなと思ったものの外壁は、意外に湿式のものが多くありませんか?

 表情に温もりがあり、コテさばきで多種多様な表現もできます。江戸時代末期、日本を訪れた欧米の人々が江戸の町を見て、「世界でも類のない整然として美しい町並みの都市」と感嘆したという記録が残っていますが、その主役は瓦と漆喰など左官屋さんにかかわる外壁、塀だったのです。

 また、珪藻土など昔からあった素材は、仕上がりだけでなく環境に優しい機能がいっぱいあることが再認識されるようになってきています。たとえば、従来から言われていた湿気調整機能や吸音性能などだけでなく、シックハウスの原因物質吸着、脱臭機能などです。

 21世紀に入って「癒やし」「優しさ」「暖かみ」「本物志向」などが重要な言葉になってきています。そんな中で左官屋さんがコテを自らの手で持ち、見事なコテさばきで継ぎ目なしの温かみのある面をつくると思っただけでも、うれしくなるのは私だけでしょうか?

 湿式建材は、現場施工比率が高いため、施工者のさじ加減で仕上がり性能が左右されます。そのことが問題の主な原因です。しかし、モルタル塗りだけでなく、珪藻土などを含めて土塗り、入洛など多種多様な素材、コテさばき次第での仕上げの表情の豊かさ、温かさなど本物志向に合致する素因をいっぱい持っています。より一層見直すべき外壁材だと思っています。



5.外壁は町並みをつくる

 最近宣伝している大手住宅メーカーの住宅デザインの傾向や、建売住宅のデザインでも、従来のモルタル塗りやサイディングではない新しいイメージの湿式系やタイル、サイディングがいろいろな形で使用されています。

 21世紀に入って外壁にかかわる環境は、町並み再生などを含めて何か大きく変わる段階に入りかけている、つまり過渡期ではないかと強く感じています。

 昔ながらの素材や味わいを生かし、新たな世界が生まれるそんな過渡期にサイディングや湿式建材など外装材に携わる人たちは遭遇しているのではないでしょうか。

[ 2005年2月3日 ]
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